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平均値を鵜呑みにしていませんか?
「貯蓄現在高(平均値)は1805万円と3年連続の増加」
総務省が5月17日に公表した「家計調査報告(貯蓄・負債編)平成27年(2015年)平均結果速報(二人以上の世帯)」によると、二人以上の世帯における1世帯当たり貯蓄現在高(平均値)は1,805万円。2002年以降で過去最高となりました。
「貯蓄現在高(平均値)は1805万円と3年連続の増加」を見てどう思われましたか?
「わが家の貯蓄は平均以下だ。皆、結構貯めているんだ」と思われた方も多いのではないでしょうか。
それは、「平均」と聞くと、平均値付近に一番多くのデータが分布しているとイメージしているせいではないでしょうか。
「平均」という言葉を使った見出しに惑わされているのかもしれません。
「平均値」には落とし穴がある?
貯蓄の金額の「平均値」が実感とかけ離れてしまうのには理由があります。
例えば、毎月決まった額を貰っている子どもの一か月のお小遣いの調査で、対象の子どもの人数が10人として、2,000円:1人、3,000円:3人、5,000円:5人、10万円:1人の場合はどうでしょう。
(2,000円×1+3,000円×3+5,000円×5+10万円×1)÷10人ですから、そのお小遣いの平均値は「13,600円」になりますが、「外れ値」の10万円を除く、9人の「平均値」は4000円です。
average
このように「10万円」という「外れ値」によって、「平均値」は大きく左右されます。また、お小遣いを貰っていない場合を含むとその平均値は変わってきます。平均で求められる結果は、データに含まれる「外れ値」のせいで実態を正しくとらえていないこともあります。
統計で集団の中心的傾向を示す値である「代表値」を算出する方法には平均値(算術平均)・中央値・最頻値があります。
平均値(AVERAGE)とは、データの合計をデータの個数で割って得られる値のこと、中央値(MEDIAN)とは、データを大きさの順に並べ替えたとき、ちょうど順番が真ん中になる値のこと、最頻値(MODE)とはデータの中で最も頻度が高い値のことです。
一般的に平均値が使われますが、分布の形によっては「最頻値」や「中央値」を代表値にする場合もあります。
平均値は他の値と比べて極端に高い(もしくは低い)値があることによって、影響を受けてしまいます。
中央値の場合は、真ん中の値ですから、そのような影響は受けません。
分布に偏りがある場合、平均値と中央値では、実感に近いのは中央値といえるでしょう。
二人以上の世帯って?
家計調査の貯蓄現在高での中央値とは貯蓄の少ない世帯から多い世帯を順に並べたときに、ちょうど真ん中にくる世帯の貯蓄額のことです。
平成27年の二人以上の世帯の貯蓄保有世帯(貯蓄「0」世帯を除く)の中央値は1,054万円ですが、この貯蓄「0」世帯も含めた中央値だと997万円まで下がります。平均値の1,805万円とは808万円も差があります。
二人以上の世帯というのは、会社・官公庁・学校・工場・商店などに勤めている世帯だけではなく、年金生活世帯、社長、取締役、理事など会社・団体の役員である世帯も含まれています。
このことも貯蓄現在高の平均値を押し上げている要因かもしれませんね。
二人以上の世帯のうち勤労者世帯の貯蓄額の平均値は1,309万円で、中央値は761万円、貯蓄「0」世帯も含めた中央値は711万円です。
histogram2015
今回の調査で、貯蓄現在高について100万未満と回答した世帯が11.1%で最も多く前年の10.3%を上回りました。
このうち貯蓄「0」の世帯は3.86%で前年の3.48%を0.38ポイント上回っています。
また、3分の2の世帯は平均貯蓄額を下回っています。
貯蓄現在高だけを見ないで…
30代以上になると、マイホーム購入のために負債を抱えている世帯が多くなります。
真の平均値を知るには、貯蓄現在高だけでなく負債現在高も見ること、また年齢階級別や年収階級別に見ていくことも必要です。
ここでは、年齢階級別に貯蓄現在高・負債現在高・年収を見てみましょう。

貯蓄現在高 負債現在高 年間収入 負債保有世帯
の割合
平均 1,805万円 499万円 616万円 38.1%
40歳未満 608万円 942万円 595万円 52.6%
40~49歳 1,024万円 1,068万円 734万円 64.6%
50~59歳 1,751万円 645万円 822万円 54.6%
60~69歳 2,402万円 196万円 573万円 27.1%
70歳以上 2,389万円 83万円 449万円 12.4%

二人以上の世帯について世帯主の年齢階級別に1世帯当たり貯蓄現在高をみると、40歳未満の世帯が608万円となっているのに対し,60歳以上の各年齢階級では2,000万円を超えています。
負債現在高をみると、40~49歳の世帯が1,068万円と最も多く、また、負債保有世帯の割合も、40~49歳の世帯が64.6%と最も高くなっています。

貯蓄現在高 負債現在高 年間収入 負債超過額
平均 1,128万円 1,310万円 723万円 182万円
40歳未満 528万円 1,796万円 633万円 1,268万円
40~49歳 860万円 1,653万円 745万円 793万円
50~59歳 1,324万円 1,181万円 863万円 -143万円
60歳以上 1,654万円 708万円 628万円 -946万円

二人以上の世帯のうち負債保有世帯における世帯主の年齢階級別にみると、貯蓄現在高は、40歳未満の世帯が528万円となっているのに対し、60歳以上の世帯は1,654万円となっています。
負債現在高は、40歳未満の世帯が1,796万円と最も多く、50歳未満の各年齢階級で負債現在高が貯蓄現在高を上回り、40歳未満の世帯の負債超過額が1,268万円と最も多くなってます。
40歳未満の世帯では貯蓄に対して3倍近い負債を抱えているのに対し、60歳以上の世帯では貯蓄現在高が負債現在高を946万円上回り、真の貯蓄があるということになります。

家計調査において二人以上の世帯の貯蓄現在高の平均値は1805万円と過去最高になったものの、一部の富裕層の貯蓄額増加が全体を押し上げており、30代・40代の負債がある世帯では、貯蓄現在高より負債現在高が上回っていることからも、決して生活は楽ではないといえるのではないでしょうか。
1805万円という平均値は、ローンを抱えながら働く世帯にとっては現実とはあまりにもかけ離れた夢の平均値ともいえますね。