ふるさと納税を考える

ちょっと雑学

ふるさと納税を考える

ふるさと納税はこんな思いから始まった
「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思でいくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」(出典:「ふるさと納税研究会」報告書)、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのが「ふるさと納税制度」です。
「ふるさと」、「納税」という言葉がつきますが、「ふるさと」でなくてもどこの自治体へでも「寄附」ができる制度です。
総務省が2016(平成28)年6月14日に発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果」によると、平成27年度の実績は、受入金額が前年の約1,653億円(対前年度比:約4.3倍)、受入件数も前年度の191.3万件を大きく上回り約726.0万件と、3.8倍程度増えています。
制度が導入された2008年度は年間の寄附受入額が81億円でしたから、約20倍です。
2015年1月から控除額約2倍となり、また4月からは確定申告不要の「ふるさと納税ワンストップ特例制度」の導入により、「ふるさと納税」の利用が容易になったことが顕著に表れています。
受入額が増えたということは…
A市に住んでいるBさんが、C市にふるさと納税を行った場合、A市の税収はどうなるのでしょうか。
もともとA市の収入になるはずの税収の一部がふるさと納税先のC市に流出すると、A市は減収になってしまい、行政サービスの水準を低下させるか、行政サービスの水準を維持するために他の財源を調達しなければならなくなりますね。
それを補ってくれるのが地方交付税(普通交付税)です。
入る予定であった住民税の減少分の75%を補填してくれるので影響は緩和され、残りの25%分が収入減となります。
しかも受入れ先の自治体では交付税が減少することもなく、寄附金額全額が収入となります。
しかしながら、都市部ではこうした税収の流出が深刻な問題となっている自治体もあります。
横浜市の平成28年度 市税実収見込額の概要では、
○ふるさと納税について
ふるさと納税は、27年度税制改正で税額控除の上限が拡充(所得割の1割→2割)され、寄附者も増加傾向にあることなどから、税収への影響を前年度に比べ▲29億円としました。横浜市 よこはま市税のページ
と記され、その深刻さを伺えます。
では、交付金を受けない不交付団体はどうでしょう。
不交付団体とは、普通地方交付税が交付されない地方自治体のことです。
国からの財政支援を受けずに、独自の税収だけで行政を運営できる、自立した地方自治体といえます。
交付税を受け取っていない不交付団体では、税収の流出は尚一層深刻です。
関連:平成27年度普通交付税の算定結果(2015年)
過熱する返礼品競争が招くものは?
控除だけでも「お得」である上に、各自治体の豪華な返礼品に魅力を感じて「ふるさと納税」を利用している・しようと思われている方も多いのではないでしょうか。
ふるさと納税のポータルサイトを見ているとまるでネットショッピングをしているかのような錯覚に陥ります。
ふるさと納税に係る返礼品送付をしている自治体は、 1,788団体中1,618団体(90.5%)です。
平成28年度においては、返礼品を送付する仕組みを設けていない 168団体( 9.4%)のうち今後の返礼品送付を検討中が 95団体( 5.3%)です。寄附金額に対しての比率や品目が同じような返礼品なのに、寄附件数や寄附金額に差がでるのは何故でしょうか。
一つには制度導入当初から返礼品合戦になることを予想して取り組んできた自治体とそうでない自治体の差とも言えます。
単なる寄附金集めの手段としてでしか取り組めなかった自治体は、「ふるさと納税」への取り組みの見直しを余儀なくされるのではないでしょうか。
しかし、総務省では、高額の返礼品の自粛などを各自治体に通知しています。
これから「ふるさと納税」による「自治体間競争」は第二章の幕開けかもしれませんね。
財政力指数の低い自治体の取り組み
ふるさと納税制度の目的の一つは、大都市への人口流出に悩む「ふるさと」を応援することにあります。
財政力指数の低い自治体が「ふるさと納税」により税収を上回る寄附金を集めていれば、その目的は達成できているといえます。
財政力指数0.1未満の自治体は全国に28。
28自治体中最も人口の少ないのは新潟県の粟島浦村で358人、多い自治体でも2,400人を割っています。
北海道の島牧村ではふるさと納税に関する現況調査で「ふるさと納税を募集する際の取組」について、「特にしていない。ふるさと納税で積極的に財源調達をしようとは考えていなく、細々とできればいい」と回答しています。
寄附受入額が最も多かった島根県の海士町では外部サイト等で積極的にPRを行っているようです。
また、人口一人あたりの受入額が最も多かったのは和歌山県の北山村は、日本唯一の飛び地の村としても有名ですが、アンケートに「自治体の取り組み次第で寄附額を増やすことが可能で、地方に資金を回す制度としては非常に良い取り組みと考えています。制度の拡張及び継続を希望いたします」と回答しています。
財政力指数0.1未満の自治体の人口と財政力指数と寄附受入額
都道府県 団体名 人口 財政力指数 寄附受入額
北海道 島牧村 1,631人 0.07 647千円
北海道 神恵内村 946人 0.09 855千円
北海道 積丹町 2,334人 0.09 1,380千円
北海道 音威子府村 800人 0.09 1,586千円
北海道 幌加内町 1,620人 0.09 1,179千円
北海道 初山別村 1,283人 0.09 1,395千円
北海道 中頓別町 1,863人 0.08 1,128千円
北海道 西興部村 1,147人 0.08 408千円
青森県 西目屋村 1,473人 0.09 3,790千円
青森県 風間浦村 2,157人 0.09 7,340千円
福島県 昭和村 1,383人 0.08 1,359千円
新潟県 粟島浦村 358人 0.08 1,290千円
山梨県 小菅村 723人 0.09 900千円
山梨県 丹波山村 602人 0.05 340千円
奈良県 野迫川村 483人 0.08 1,090千円
奈良県 上北山村 596人 0.08 650千円
和歌山県 北山村 461人 0.09 16,555千円
島根県 海士町 2,357人 0.09 22,210千円
島根県 知夫村 592人 0.07 2,145千円
高知県 大川村 420人 0.09 2,145千円
鹿児島県 三島村 375人 0.05 1,080千円
鹿児島県 十島村 665人 0.05 16,736千円
鹿児島県 大和村 1,643人 0.07 5,232千円
鹿児島県 宇検村 1,836人 0.09 1,804千円
沖縄県 渡嘉敷村 683人 0.09 1,650千円
沖縄県 座間味村 911人 0.09 6,181千円
沖縄県 渡名喜村 406人 0.06 390千円
沖縄県 伊平屋村 1,316人 0.08 3,181千円

地域活性化の手段として効果のある制度でありながら、人口の少ない自治体では過疎化も進んでおり、マンパワー不足から充分に活用できていない場合もあるでしょう。

震災と寄附文化
欧米に比べて、寄附文化の根付きにくいと言われている日本ですが、この度の熊本地震の被災地支援においても、この「ふるさと納税」が一翼を担いました。
阪神大震災の起きた1995年は「ボランティア元年」、日本人の4人に3人が何らかの形で寄附をしたと言われている東日本大震災の2011年は「寄附元年」と呼ばれています。
しかし、特産品などを贈る「返礼品」でふるさと納税が全国的なブームになるにつれて、東日本大震災の被災自治体に対する「ふるさと納税」の寄付が激減しているようです。震災直後の平成23年度には、岩手・宮城・福島の被災三県に寄せられたふるさと納税を中心とした寄付額は47.7億円近く全国の寄付総額約121.6億円の39.2%を占めていました。
返礼品を贈る余裕のない被災自治体がブームの煽りを受けているのです。
東日本大震災の被災地の復興はまだまだです。
今一度、「寄附」の意味を考えるべきかもしれません。
企業版 ふるさと納税制度が始まった!
2016年度税制改正で「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」が導入されました。
地方公共団体が行う地方創生事業に対する法人の寄附を促す制度です。
詳しくはこちらを地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)
同制度を活用して創業地の北海道夕張市に総額5億円を寄附する方針を表明したのは、家具製造販売大手のニトリホールディングス。
全国で唯一の財政再生団体である夕張市を2016〜19年度の4年間かけて支援する予定です。
また、チューリッヒ保険会社も、長崎県の地方創生事業へ支援を行うことを発表しました。
こちらの支援は、地域に定着し、将来の長崎県の産業を担う人材を確保するため、県内企業に就職した大学生などへの奨学金の返済支援や、即戦力として活躍できる人材育成のための、県立大学へのサポートを行うものです。
そして、宮城県石巻市では行政と民間が協力し、制度を活用した寄付によって、東日本大震災の津波で児童ら84人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市の市立大川小の校舎保存に向けを保存する動きがあります。
当たり前のことのようですが、「地域再生計画の認定制度に基づく法律上の特別の措置」において寄附額の大きい企業版でお礼競争が起きると公共事業の入札シーンなどで不正につながりかねないため「見返り」を固く禁止しています。
ふるさと納税にも落とし穴がある?
ふるさと納税のお礼の特産品は課税対象です。
自治体によっては寄附者へのお礼として特産品を送る場合がありますが、これは一時所得に該当します。
これは、ふるさと納税(寄附)が収入(特産品)を得るための支出として扱われず、寄附金控除の対象とされていることに伴うものであり、一時所得は、年間50万円を超える場合に、超えた額について課税対象となります。
なお、懸賞や福引きの賞金品、生命保険の一時金や損害保険の満期払戻金なども、一時所得に該当しますのでご注意ください。
詳しくはこちら「ふるさと寄附金」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係
総務省:ふるさと納税ポータルサイト
ポイント制度を採用している自治体において、寄付をしてポイントを得る行為までは一時所得になりませんが、ポイントを使用して物を受け取った時が所得とみなされます。貯めた大量のポイントを一気に使うような場合は注意が必要ですね。
寄附とは見返りを期待しないもの
「自分を育んでくれた『ふるさと』のためにいくらかでも納税をしたい、恩返しをしたい」といった思いから始まった、せっかくの「ふるさと納税」制度です。
税収の地方間格差や、過疎などによる税収減少に悩む自治体に対して、格差是正を推進するための新構想として創設された制度です。
「ふるさと納税 損する人」「ふるさと納税は本当にお得」などといった見出しをよく目にしますが、寄附先の自治体よりも居住地の自治体の財政が逼迫していては本末転倒ですよね。
非課税世帯は幾ら地方自治体に寄付をしても、所得税の還付や住民税の控除を受けられない、また、住民税を多く納めている高所得者ほど、恩恵を受けられる税制に高所得者に対して有利な節税策を提供しており不公平だと問題視している声も耳にします。
控除を受けられなくても「寄附」はできますし、そもそも「寄附とは見返りを期待しないもの」です。
「損得」を考えた時点でそれは「寄附」ではなく「投資」になるように思います。
節度をわきまえた運用によって、本来の趣旨から逸脱することなく持続的な制度であって欲しいものです。